メモ帳

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4. 「舞姫」を読む基本的視点 (メモの2の続きが残っていた。)

 一般に対立は同じ基盤の上でしか生じない。四迷は日本の社会全体を見渡していたから、階級的な分化が視野にあった。この意味で認識が深く広い。豊太郎の生活と意識における対立物は、豊太郎が生活の基盤としているエリートの世界にある。豊太郎が一致し、対立しているのは天方伯と相沢である。豊太郎はエリスとも関係しているから、当然エリスと一致し、また対立している。豊太郎は天方伯や相沢と基本的に一致しており、そこにおける対立が豊太郎の人生の全体を規定している。エリスとの関係はその一部分である。天方伯との関係の変化、展開によってエリスとの関係は規定される。この関係の中で相互作用がある。豊太郎にとってエリスとの関係が基本的な関心であり、重要な意義を持っている。といっても、エリスとの関係はそれ自体として、つまり独立して、他との関係の中でもっとも基本的な位置において重要な意味を持つのではない。エリスとの関係は、天方伯との関係において重要な意義を持っている。エリスとの関係は天方伯との関係に傷を付けるのではないか、エリスとの関係があっても自分をエリートとして認めるかどうかという意味でエリスとの関係は重要である。それ自...
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3.

 メモの 1 で、都市論なんか10行以上とても読めない、と弱気なことを書いたら、高校の教師に、認識が甘いと、お叱りをうけた。高校の教科書にあんな文章が載っているらしい。それは高校生も教師も大変だろう。義務としてあんなものに一時間も接していたら頭がどうにかなってしまう。どうにかなってしまっている分には平気だろうが、変になるまでには相当に苦しまねばならない。いづれにしても世間知らずと現状認識の甘さは認めねばならないと悟った。  世間知らずにとってネットは非常に有力な武器になる。昨年、地上には熊が出るし、頭上には熊鷹が飛ぶほどの山奥で仕事をしていたとき、民宿でパソコンを開けたら、時々メールで質問が入っていた。いま山仕事中で、資料がないので正確な返事ができません、そうですか、ここも結構田舎ですとかいうやりとりをしていたら、その田舎というのが、ニューヨークの郊外だった。ニューヨークと紀伊山地の山奥で特に費用もかからずに通信ができる。大変便利になった。順番を逆に言えば、ニューヨークともパリとも特別に費用もかからずに通信しながら、身体中を日に焼いて、目が落ち窪んでしまうような仕事ができるということ...
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2.

 基本矛盾・・というのは、関係の順番の問題、いづれがより基本的で、いづれが被規定的かという問題である。『浮雲』のお勢を理解する場合、彼女の運命と「近代的な自我」は、自己を二重化することなく無意識的に大きく変化していく。それを規定しているのは、現象的に言えば昇と文三の力関係である。昇の社会的な力が商品経済の発展とともに支配力を拡大して、お勢の意識をも支配していく形態を四迷はうまく描いている。非常に視野が広く深い。  「舞姫」の場合、豊太郎と天方伯・相沢との関係と、豊太郎とエリスとの関係のいづれが基本的であるかを理解することが非常に難しい。豊太郎と天方伯との関係が基礎で、この関係によってエリスの運命は規定されている。この関係を論理として貫徹するのが難しくまたおもしろい。この三者の相互作用の構造を明らかにしなければならない。  豊太郎が持つもっとも抽象的な矛盾としては自己と他人一般が想定される。豊太郎は自己保身的であるからこれは現象的にもすぐに思いつかれる。すこし観点を変えて、肯定的なニュアンスをもって、豊太郎の自我と社会とか、自我と国家とかいうのもごく抽象的な点では同じである。しかし、...
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1.

 鴎外の作品は、「舞姫」に限らず無内容であるが、インテリには 深い内容があるように見える材料を、つまり身近で切実な材料を、深い内容があるように描いているし、自分でもそう思っている。特に「舞姫」は、エリスとの関係を扱った偶然によって深刻な内容があるように思われているし、そう思う思想上の必然がある。だから、「舞姫」がどのように理解されているかが作品理解とは別の課題として重要であると思われるので、しばらく時間をとって批評史を調べることにした。  で、「森鴎外を学ぶ人のために」(世界思想社・1994年)という本を借りてきた。この本の編者である山崎國紀氏の「舞姫」に関する文章に、  「建設途上の国家の中で、いかに生きるかという役割を賦された苦悩する近代知識人の原像でもあった。」とか、「この『まことの我』の問題は、日本近代文学が最初に出会った重大な精神の戦争であったと言えよう。」とあるので、近代的自我の苦悩という評価は最近まで維持されているらしい。ところが、すぐあとに、  「ただ『舞姫』を作品の展開に即し、素朴に読んでみると、こうした「近代的自我」の問題だけでなく、豊太郎とエリスの"愛"の問...
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